エンジニアが知っておくべきソフトウェアの知的財産権
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ソフトウェアと知的財産権
知的財産権とは、お金や土地など実体のある物に所有権が認められるように
アイデアや表現など実体のない情報についてその財産的な価値を保護する権利で
特許権、著作権、意匠権、商標権などが該当します。
ソフトウェアに関して言えば、著作権は記述されたプログラムの表現を、
特許権はプログラムのアルゴリズムなどの技術的アイデアを保護すると言われています。
ソフトウェアの特許権とは
特許とは
特許とは、新たな発明を保護する制度です。
特許権者は発明の生産や使用を独占することができます。
しかし特許法は、発明者の利益だけを保護する法律ではありません。
発明者だけを保護して、その権利を永遠に認めると
その技術が社会全体で利用されず、その技術を使った新たな技術の開発の機会が失われるなど、技術の進歩が遅れてしまいます。
かといって権利を全く認めないと、莫大な費用をかけて開発・研究をするメリットがなくなってしまいます。
そこで発明の権利の独占を、一定期間だけ認めることで
発明の公開による技術の発展と、発明をすることへのインセンティブのバランスを取っています。
産業の発達のための手段として発明者の利益を確保し、社会全体の利益を確保するのが特許法なのです。
特許の条件
特許として認められるためにはいくつかの条件があります。
その中で重要なのが、「発明であること」「新規性」「進歩性」の三つです。
既に世の中でよく知られている発明や、誰でも簡単に思いつくような発明は
特許として権利を独占することが出来ません。
発明とは?
まず、特許法は発明を保護する法律なので、前提として発明であることが必要です。(特許法第1条)
この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とす
発明とは何にかについては特許法第2条1項で定義されています。
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいう。
ここで重要なのが、自然法則を利用したものでなければならないという点です。
自然法則とは、水は高いところから低いところに流れるといった自然界の法則や、慣性の法則などの物理上の法則のことです。
そのため、人為的取り決めや、経済法則を利用したもの、自然法則そのものは発明に該当せず特許の対象になりません。
(例)スポーツやゲームのルール、プログラム言語、株式の運用方法、商品の仕入れ方
当然ソフトウェア関連の特許についても自然法則を利用していなければなりません。
プログラムは数学や論理学の法則を用いることが多いですが、
単にPCが演算するだけでは自然法則を利用しているとは言えません。
情報処理に自然法則を利用している場合か、情報処理にハードウェア資源が利用されているような場合に自然法則を利用していると判断されます。
- 情報処理に自然法則が利用されている
(例) 掃除機や洗濯機、車などハードウェアの制御を行うソフトウェア、
スキャナで読み取った画像データを処理するソフトウェア - ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている
ソフトウェアとハードウェアが協働した手段によって情報処理がされているか否かで判断されます。
新規性
新規性とは、その発明がまだ公になっていない新しいものであるということです。
具体的には、特許法29条に該当しない発明に新規性があると認められます。
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
同じアイデアを他人がすでに発表していた場合はもちろん、本人自らが学会や展示会、論文、GitHubなどで公開した場合にも新規性が失われ原則として特許が受けられなくなってしまいます。
進歩性
新規性が認められても、従来の技術から容易に考えられるようなもの、
細かい修正やマイナーチェンジ、バグの修正などを行っただけでは特許を受けることができません。
特許権という強い権利を認めるに値する新たな技術的進歩が必要とされます。
(特許法29条2項)
特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない
従業員の発明の特許権は会社のもの?
結論から言うと、会社と従業員の間に事前の取り決めがなければ、従業員がその発明の特許を受けることができます。
つまり、会社の業務で従業員が発明を行っても当然にその権利が会社のものになるというわけではないということです。
(特許法の35条3項)
従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。
あらかじめ、権利を会社が継承するという契約や社内規定があったとしても、無条件にその権利を継承できるわけではありません。
会社はその発明を行った従業員に対して「相当の利益」を与えなければならないとされています。
(特許法35条4項)
従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。
プログラムの著作権とは
特許権がアイデアを保護する権利であるのに対して、著作権は表現を保護する権利です。
プログラムもプログラミング言語などによって表現されたものと言えますが、
ここで、著作権の対象となる著作物は以下のように定義されています。
(著作権法第2条1項)
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
プログラムが、小説や歌のように、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するかどうかは混乱を招きますが、著作権法10条1項9号にてプログラムが著作物に当たることは明記されています。
第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
(中略)
九 プログラムの著作物
また、プログラムについて著作権の保護が及ばない範囲も定められています。(著作権法10条3項)
3 第一項第九号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。この場合において、これらの用語の意義は、次の各号に定めるところによる。
一 プログラム言語 プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう。
二 規約 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別満たせばいう。
三 解法 プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう。
著作物とは思想、感情を創作的に表現したものなので、
著作権の対象となるには、創作的に表現されている必要があり、
プログラムにおいては、PCへの指令の表現自体、その指令の表現の組み合わせ、その表現順序など具体的な記述において作成者の個性が表現されていなければなりません。
そのため、表現に選択の余地がなく誰がコーティングしても同じ表現になる場合や、簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの、ごくありふれたものは保護されません。
また、表現になる前のアイデアも保護されません。
つまり、ある課題を解決する方法が同じでも、表現が異なれば著作権侵害にはならないということです。
例えば、アルゴリズムは解法と解釈され、同じアルゴリズムを用いてもそれだけで著作権侵害にはなりません。
次に、著作権によって認められる具体的な権利について確認したいと思います。
著作権には大きく分けて二つの側面があります。
著作者の人格を保護する著作者人格権と、
著作物の価値を保護する著作財産権の二つです。
著作者人格権
著作者の名誉や、人格面を保護する権利です。
- 公表権(著作権法18条)
まだ公表されていない著作物を公表するかどうか自由に決められる権利。 公表されていないものの著作権を譲渡したときは、公表に同意したと推定されます。
- 氏名表示権(著作権法19条)
本名やペンネームを、著作者名として公表したりしなかったりできる権利。
例えば、名前を伏せて著作物を勝手に公表すると氏名表示権の侵害にもなり得ます。
- 同一性保持権 (著作権法20条)
中身の勝手な変更を禁止する権利。
プログラムの場合、他のOSで動けるようにしたり、バグの修正、効率改善のための改変などは
同一性保持権の侵害には当たらないとされています。(著作権法20条2項3号)
前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない 。
(中略)
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
著作者人格権は、契約などによって譲渡できない権利とされています。(著作権法59条)
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない
つまり、著作権が自社に移っても、その後著作者人格権が主張される可能性が残ります。
したがって、公表方法や、著作者名の表示の方法、著作者人格権は行使しないなど、
著作者人格権について、あらかじめ契約で合意しておくことが望まれます。
(後述の職務著作は、著作者自体が会社になるので著作者人格権も会社のものとなります。)
著作財産権
著作物の価値を下げる行為に注目した権利で、
いくつかありますが、そのなかでも中心的な二つの権利をピックアップしたいと思います。
- 複製権(著作権法21条)
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
複製とは、ある著作物に依拠していることが分かる類似性を有するものを再製することとされています。表現が完全に一致していなくとも実質的な同一性があれば複製になり得ます。
なお、創作性が認められる程度の修正の場合は複製には当たらずとも翻案権に抵触する可能性があります。
(私的使用のための複製や引用は著作権が制限されます。)
- 翻案権(著作権法27条)
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
具体的には、小説のドラマ化や漫画のアニメ化、いわゆる二次創作などが含まれます。 ある著作物を参考に、新しい著作物を創作しても本質的な特徴が同じで参考にした著作物の特徴が感じられる時は翻案権の侵害になります。 どの程度で翻案にあたるかどうかはケースバイケースで判断されます。
プログラムの場合、バグの修正、効率改善のための改変などが、同一性保持権の侵害には当たらないように、プログラムの所有者は利用するのに必要と認められる限度においての複製や翻案が認められています。(著作権法47条3項)
(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)
第四十七条の三 プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。ただし、当該実行に係る複製物の使用につき、第百十三条第五項の規定が適用される場合は、この限りでない。
必要と認められる限度は、プログラムのインストールや、バックアップ、バグ修正などとされるので、新しい機能の追加などは必要と認められる限度を超える可能性もあります。
複製物を貸与された者など、プログラムの所有者でない場合は適用されないので注意が必要です。 また自ら使用する場合でも、職場などで複数のPCで使用するために複製することはできないとされています。
また、翻案権(著作権法27条)と二次的著作物に関する権利(著作権法28条)について、
これらの権利の譲渡を受けたいときは「著作権を譲渡する」と契約書に記載しても足りず、
著作権法27条、28条の権利が譲渡対象であることを具体的に明記する必要があるので注意が必要です。
(著作権法61条2項)
第六十一条 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
業務で作ったプログラムの著作権は会社のもの?
著作権は基本的に、実際にその著作物を創作した者に申請などなしに自然発生する権利ですが、
従業員が会社の職務で作成したものの著作権は会社のものになります。
それが、職務著作と呼ばれる制度です。
(職務上作成する著作物の著作者)
第十五条
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
職務著作にあたると、プログラムの著作権は会社のものとなります。
職務著作にあたる条件
- 法人その他使用者の発意に基づく
具体的な指示が直接あるだけでなく、指示がなくてもそのプログラムを作ることが職務上当然に期待される場合もこれに当たります。
(外注の場合は、エンジニアが発注者に使用されるわけではないのでこれには当たりません。)
- 法人等の業務に従事する者
働き方が多様化する昨今において、単に会社と雇用契約を結んでいる者だけでなく、
法人と作成者の実質的な関係を、勤務の実態や指揮監督の有無、対価の支払いなどを総合的にみて判断されます。
- 職務上作成するプログラム
そのまま、プログラムの作成が職務として行われるという意味です。
職務で得た知識を用いて、勤務時間中に職場で作成しても職務に該当しないときはこの条件を満たしません。逆に職務に該当するなら、自宅で職務時間外に作成してもこの条件を満たします。
- その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない
これまでの条件を満たしていても、契約や就業規則に、業務上作成したプログラムの著作権は作成者に帰属するという規定などがあれば職務著作には当たらないということになります。
このような規則はプログラムの作成時に存在している必要があるので、作成後の規則は無効になります。
(なお、プログラム以外の一般的な著作物の場合、会社名義で公表される必要がありますが、
プログラムは公表しないものが多く、条件から除かれています。)
開発を委託したプログラムの著作権は誰のもの?
CDを購入して、所有権を持っていても中身を動画サイトに投稿したら著作権侵害になります。
絵画を購入し譲渡したり捨てることは出来ても、その絵をコピーして売ることはできません。
このように、基本的に著作権は、実際に作成した者に自然発生する権利です。
ソフトウェアについても著作権は原則としてそれを実際に作成した者に帰属します。
そのため、ユーザー企業がベンダーに委託し、開発費を負担することで当然に著作権がユーザー企業に帰属、移転することはありません。
つまり、契約に著作権の帰属についての取り決めや合意がないとき著作権はベンダーに帰属するということになります。
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関連記事:エンジニアが知っておくべきOSSライセンスの基礎知識
関連記事:作業効率化!OSS(オープンソースソフトウェア)の種類を一覧で紹介
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