暗黙知と形式知とは? 意味や形式知化する方法・ポイントを解説

2022-03-23

企業の中には、言語化することやマニュアルなどに落とし込みにくいノウハウなどが散在しています。こうした言葉にしづらい知識は「暗黙知」と呼ばれ、業務をうまくこなしていくための隠れたコツとして働いています。また、論理的に説明される「形式知」も存在します。そこで本記事では、暗黙知と形式知の基本的な意味や、それらを継承していく意義や方法などについて具体例を挙げつつ解説していきます。

暗黙知と形式知とは? ナレッジ共有に必須の知識

そもそも暗黙知とはどのような概念なのでしょうか。以下では、暗黙知とその対義語である形式知がどのような意味を持つ概念なのかを分かりやすく解説していきます。

暗黙知とは

暗黙知とは簡単に言うと、言葉では説明のしにくい知識のことです。暗黙知は元々1949年に、哲学者のマイケル・ポランニーが『暗黙知の次元』という著書で初めて提唱した概念と言われています。

私たちは往々にして、言葉にして説明できる事柄ばかりを「知識」とみなしがちです。しかしポランニーは、「私たちは言葉にできるより多くのことを知ることができる」という主張を掲げ、日常的な認識や実践的な行為を支えているのはむしろ、経験や勘などに基づく暗黙知なのだという議論を展開しました。
(引用元:マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』高橋勇夫訳、ちくま学芸文庫、18ページ)

暗黙知は英語にすると、”tacit knowledge”や”tacit knowing”という言葉になりますが、ポランニーはこれを”knowing how”とも言い換えています。これはいわゆる「ノウハウ」を意味しており、物事を上手にこなすための「やり方に関する知識」を示していると解釈できます。たとえば、キーボードのブラインドタッチや職人の技巧など、身体に染みついた能力は暗黙知の代表例です。

形式知とは

前述した暗黙知の対義語として理解される概念が「形式知」です。形式知とは、言葉や図形、図表などで説明できる知識のことを指します。客観的に把握できることや、論理的構造として捉えられることが形式知の特性です。企業で言うならば、マニュアル化された資料や、明文化された規則などがこれに相当します。

マイケル・ポランニーは、こうした形式知を”knowing What”ないしは”Knowing that”と称しています。これは「事実知」や「事柄の知識」などと訳されますが、要するに「あれはリンゴか?」という質問に対して、「みかんである」とか明瞭に答えられるような知識です。形式知が私たちの知識を構成している大事なものであるのは確かですが、ポランニーはこちらの側面ばかりを気にしていて、暗黙知という大事な一側面を見落としてしまう学問的傾向に警鐘を鳴らしたのでした。

暗黙知と形式知を具体例で解説

暗黙知と形式知とはどのような知識なのか理解しやすくするために、いくつかの具体例を出してみましょう。

たとえば自動車の運転の仕方を学ぶとき、私たちは自然と2通りの学習方法を用いています。一方は形式知を活用したアプローチで、この場合私たちは、教則本などを読みながら、「こっちがアクセルで、あっちがブレーキだ」、「アクセルを踏むと進む」といったことを学んでいきます。要するに自動車の機械的な構造や仕組みなどを、論理的に頭で理解していくのです。

こうした形式知による学習の仕方は、たしかに学習効率を高めます。自動車の各部位の機能をあらかじめ知っておけば、あちこちを手探りで実際に操作して車を動かす手間や危険を避けられるでしょう。しかし、このように頭でしか理解できていない状態では、いちいち指差し確認しながら車を動かすような初心者運転の域を脱しません。ここで重要になってくるのが暗黙知の能力です。

私たちは、最初は指差し確認しながら行っていた動作も、何度も実際に繰り返していくうちに自然と遂行できるようになっていきます。たとえば、道路に急に何かが飛び出してきたとき、ある程度運転に慣れたドライバーなら、いちいちブレーキの仕組みを考えることなく、反射的にブレーキを踏むことができます。こうした行為を可能にしているのが、経験や勘によって構成された暗黙知の働きです。いわゆる「習うより慣れろ」という言葉は、暗黙知的な学習法を正しく表現していると言えるでしょう。

暗黙知はこうしたスキルやテクニックだけでなく、認知的な能力にも関係します。例えばポランニーは、熟練の医師は患者の顔を見ただけでも直感的に相手の体調や症状を見抜くことができるという例を挙げています。私たちが親しい相手の些細な兆候から機嫌の良し悪しを察知したり、仕事内容を少し聞いただけで「これは厄介な案件だな」と予感できたりするのも暗黙知が可能にしていることと言えるでしょう。

売上アップには「暗黙知の形式知化」が重要

上記のように説明すると、暗黙知と形式知とはまるで無関係のもので、両者が相反するように働いているのだと解釈してしまう人もいることかもしれません。あるいは、形式知よりも暗黙知の方が優れた知識なのだと誤解してしまう人もいるかもしれません。

しかし、暗黙知と形式知の関係を正しく理解する上で重要なのは、両者はどちらが優れているというよりも、互いに支え合って私たちの知識や活動を成り立たせているということです。例えば暗黙知は言葉で説明しにくいという性質上、企業においてはしばしば、業務の属人化と結びついてしまっています。

業務の属人化とは、特定の業務がマニュアルなどによって標準化されることなく、「この仕事は

あの人にしかできない」という状態を指します。企業内には確かに明文化しにくいノウハウ(=暗黙知)があちこちに散在しており、こうした暗黙知が各従業員のスペシャリティになっているとも言えるでしょう。

しかし、こうした暗黙知を誰もが共有できるような知識に変えること(形式知化)をしないと、そのノウハウは個人にしか蓄積されず、会社の知的財産にはなりえません。逆に言えば、一部の社員しかできなかった高度な暗黙知的作業を誰もが利用できるように形式知に落としこめれば、それは職場全体のレベルアップを促し、業務の効率化や売上アップも見込めるでしょう。つまり、暗黙知の形式知化は、個人の属人的な知識を集合知へと変換していくための大切なプロセスなのです。

暗黙知のままにしておくことのリスク

企業が、社員の知識を暗黙知のままにしておくことで生じるリスクを改めてまとめましょう。暗黙知とは往々にして属人的な知識であり、他者との共有が進んでいない場合が多くあります。優れた暗黙知があっても限られた人にしか活用できないのでは、非常にもったいないことです。

最悪の場合、その暗黙知の所持者の退職や転属に伴って、有用な暗黙知が誰にも気づかれることなく消えてしまうこともありえます。継承者の不在による伝統工芸の衰退は、価値ある暗黙知の喪失の最たる例と言えるでしょう。

また、暗黙知は当初に述べた通り言語化が難しい知識です。それゆえ、優れた暗黙知の所有者であっても、他者にそれをうまく伝えられるとは限りません。それゆえ、企業が主導して暗黙知を形式知化する作業を進めなければ、業務上の大事なコツなどがうまく伝わらず、業務の効率性がいつまで経っても上がらない可能性もあります。

形式知化には「ナレッジマネジメント」が有効

では、暗黙知を形式知化していくために、企業は何をすればよいのでしょうか。ここでカギとなるのが、ナレッジマネジメントを導入することです。

ナレッジマネジメントとは?

ナレッジマネジメントとは、知識や経験、ノウハウの共有や活用を通して、新たな知識をさらに創造し、ビジネスに役立てていくことを意味します。ナレッジマネジメントは経営学者として著名な野中郁次郎教授らが初めて提唱したと言われています。日本のビジネス界に「暗黙知」の概念を広めたのも同氏の功績です。

なぜ注目されているのか

ナレッジマネジメントが注目されている理由としては、日本において終身雇用制度が実質的に崩壊したことが挙げられます。高度経済成長期においては終身雇用が当たり前であり、長期的な人材育成が可能なので自然とナレッジの蓄積や共有が行われていました。

しかし就職氷河期を経て働き方が大きく変化した現代、人材の流動性が高くなり、企業は知的リソースを意識的に蓄積・共有する必要性に迫られるようになってきたのです。さらにIT技術が高度に発達したいまの情報化時代においては、意思決定や行動にスピード感が求められています。こうした状況においては、知識を迅速かつ効率的に共有する手段を確保する必要性が増しており、知識の効果的な蓄積や共有を行うナレッジマネジメントの注目度が高まっているのです。

ナレッジマネジメントを行う4つの方法

続いては、ナレッジマネジメントを行うための4つの方法を解説していきます。

SECI(セキ)モデルを使う

先に挙げた野中郁次郎教授はナレッジマネジメントの進め方として、「SECI(セキ)モデル」というフレームワークを提唱しています。SECIモデルでは(1)共同化、(2)表出化、(3)結合化、(4)内面化という4ステップを回すことで組織に内在する暗黙知を形式知化できるとされています。各ステップの内容は以下の通りです。

(1) 共同化の段階は、既に何らかの暗黙知が組織内に形成されている状態です。この段階において、暗黙知は往々にして個人単位や小規模なグループ単位で細々と活用されています。

(2) このような暗黙知の存在を組織として自覚し、顕在化させるのが表出化の段階です。ここにおいて暗黙知はマニュアル化などを通して形式知化されます。

(3) 形式知化された知識(暗黙知)は、高度に知的な方法で組織的に運用することが可能です。そうして活用されていく中では、知識同士を組み合わせてさらに相乗効果を高めたり、新たな知識が創造されたりすることもあるでしょう。これが結合化の段階です。

(4) 運用が進んでいく中で新たな形式知は組織の中に浸透していき、自然と再び暗黙知へと変わっていきます。これが内面化の段階です。ただし、この際に暗黙知される知識は、形式知化を経てより高い価値を有しています。より価値を増した暗黙知をさらに再び掘り起こし、形式知化していくことで、組織のナレッジを持続的に発展させていくことが可能になるのです。

場(ba)を創造する

ナレッジマネジメントの第二の手法は、場(ba)を創造することです。この場合の「場」とは、空間的な場所を指すというより、暗黙知や形式知が共有・蓄積されていくためのコミュニティやその機会のことを指します。

この場には様々な種類があり、喫煙所や食堂での雑談はもとより、社内SNSやオンラインミーティングなども含まれます。暗黙知や形式知が共有されるには、従業員間での交流を活発化することが必要になるのです。

知識資産を活用する仕組みを作る

ナレッジマネジメントの第三の手法は、知識資産を活用する仕組みを作ることです。ナレッジマネジメントを一時的なもので終わらせず続けていくには、そこで得た情報を実際に活用していく仕組みづくりが必要です。

例えばマニュアルや社内wikiの作成などはその代表例です。なるべく気軽に知識や経験を提供できる仕組み、継承できる仕組みを作ることで、ナレッジマネジメントを効率的に進めることができます。

ナレッジリーダーシップを活用する

ナレッジマネジメントの第4の手法はナレッジリーダーシップを活用することです。ナレッジリーダーとは、ナレッジ活用の目標を作成し、それに向かって進めるために推進する人を意味し

ます。

暗黙知の形式知化には一定の難しさがあり、どのような暗黙知が自社にとって価値があるのか、そもそも自分がどのような暗黙知を持っているのか分からない場合もあります。あるいは、暗黙知を提供することで組織内での自分固有の強みが失われることを恐れて、知識を出し渋る人もいるかもしれません。

こうした課題に対応するための人材がナレッジリーダーです。ナレッジリーダーを中心にナレッジマネジメントを進めていくことで、協力者を増やしていくことができます。

ナレッジマネジメントを行うメリット

続いては、ナレッジマネジメントを推進することで、企業がどのようなメリットを得られるのかを解説していきます。

業務の効率化

ナレッジマネジメントを進めることで業務効率化の実現が期待できます。ナレッジを共有・蓄積することで、同じミスを犯すことが少なくなり、無駄な時間的コストを掛けずに済みます。また、社内wikiやFAQを活用することで、誰もが業務の最適な進め方を知り、業務の効率化を図れます。

教育コストの削減

教育コストの削減もナレッジマネジメントで得られる大きな効果です。知識の共有と蓄積を進めることで、業務遂行に役立つ組織の知識は高度に体系化され、共有されていきます。これによって新入社員の入社時や、新たな業務の際に一から教育や研修をせずとも、蓄積されたナレッジを利用することで効率的に人材育成を行うことが可能になります。

顧客満足度の向上

顧客満足度の向上も期待できる効果に含まれます。組織のナレッジの中には、顧客情報も含まれます。ベテラン社員が有する顧客に関するナレッジやノウハウを集積していくことで、新入社員でもそれぞれの顧客ニーズに合わせた対応が可能になり、結果として顧客満足度の向上が実現できます。

組織力の強化

組織力の強化も見逃せないトピックです。ナレッジを共有する場が活性化することで、従業員間の交流は促進され、お互いに対する理解を深められます。全社的にナレッジを共有する場を設けることで、普段はかかわりのない社員や部門の仕事内容を知ることもできるでしょう。結果として従業員間や部門間の連携が強化され、組織力全体の強化につながることが期待できます。

イノベーションの創出

SECIモデルでも示されていたように、ナレッジは蓄積されて終わりではなく、共有・昇華を経て、更に高次元なものへと進化していくことが期待できます。また、一つのナレッジを知見の異なる複数人が見ることで様々な視点からの意見が加わり、新たなイノベーションが創出されることも見込めます。

ナレッジマネジメントを行う際のコツ

前記したようなメリットを生み出すために、企業はどのような点に気を付けてナレッジマネジメ

ントに取り組めばいいのでしょうか。以下では、知識の蓄積や共有を進める際のコツを紹介していきます。

リーダーを決める

ナレッジマネジメントを効率的に進めていくためには、リーダーを選出し、そのリーダーを中心に計画を進めていくことが大切です。選定されたリーダーは、ナレッジマネジメントの方向性や目的を組織内に周知する役目を担います。そうすることで、知識を共有することの重要性についての理解を従業員全体で深めたり、積極的なナレッジ共有を促したりすることが可能になります。

ナレッジを共有しやすい環境を作る

ナレッジを共有しやすい環境を意識的に作ることも重要です。先述のように、ナレッジは共有されることで昇華されていきます。それゆえ、ミーティングなどを業務内に設けるのはもちろん、休憩スペースや喫煙所など、業務に直接関係のないリラックスした場も設けて従業員間のコミュニケーションを活性化することが大切です。

ナレッジマネジメントの重要性を周知徹底する

ナレッジマネジメントの重要性を従業員全体に周知して、徹底することも重要です。中途半端に周知したところで、日々の業務に忙しい社員にとってナレッジの提供は優先度の低いものになりがちです。それゆえ、ナレッジマネジメントの意義や必要性を周知徹底し、経験豊富な社員などに蓄積した豊富なノウハウを提供してもらうように強く呼びかける必要があります。

ナレッジベースを活用する

ナレッジベースを活用することも有効な方法です。ナレッジベースとはナレッジを一カ所に集めたデータベースを意味します。例えば社内wikiなどがその代表例です。ナレッジベースを導入することで、社員はどこにナレッジを提供すればいいのか、どこにアクセスすればナレッジを手に入れられるかを理解しやすくなり、ナレッジの共有を効果的に進めやすくなります。ナレッジベースを導入する際には、テキストだけでなく図表や画像なども記載できるようなプラットフォームを採用することで、言葉にしづらい暗黙知も共有しやすくなることが期待できます。

ナレッジベースツール「GROWI.cloud」で効果的なナレッジマネジメントを

先述のように、ナレッジマネジメントにはナレッジベースが非常に有効です。例えばナレッジベースをクラウド上に構築すれば、テレワーク環境などで社内研修が満足に行えない状況でも、それぞれの社員は必要な知識を迅速に得ることができます。

GROWI.cloudはクラウド上に社内wikiを作成できるナレッジベースツールです。GROWI.cloudではテキストだけでなく図表なども利用できるので、文章だけでは表現しづらい知識も分かりやすく伝達できます。また、同時に多人数編集もできるので、ナレッジの共有や蓄積を容易に行うことが可能です。ナレッジマネジメントの推進の際には、ぜひ導入をご検討ください。

まとめ

本記事では暗黙知と形式知の意味や、暗黙知を形式知化するためのナレッジマネジメントについて解説しました。ナレッジマネジメントを進めるためには、従業員間の交流を活性化すると共に、社内wikiなどのナレッジベースを導入することが重要です。ナレッジベースを導入する際には、「GROWI.cloud」の利用をご検討ください。