暗黙知とは?形式知に変換して業務を効率化しよう

2024-03-29

企業の中には言語化やマニュアル化が難しい知識が散在しています。こうした言葉にしづらい知識は「暗黙知」と呼ばれ、業務をうまくこなしていくための隠れたコツとして働いています。それらが文章や図表にされ、目に見える形になった「形式知」も存在します。

本記事では、暗黙知と形式知の基本的な意味や暗黙知を形式知に変換する方法などを、具体例を挙げつつ解説していきます。

暗黙知と形式知とは?

そもそも暗黙知とはどのような概念なのでしょうか。以下では、暗黙知とその対義語である形式知がどのような意味を持つ概念なのかを分かりやすく解説していきます。

暗黙知とは

暗黙知とは簡単に言うと、言葉では説明のしにくい知識のことです。暗黙知は元々1949年に、哲学者のマイケル・ポランニーが『暗黙知の次元』という著書で初めて提唱した概念と言われています。

暗黙知は英語にすると、”tacit knowledge”や”tacit knowing”という言葉になりますが、ポランニーはこれを”knowing how”とも言い換えています。これは俗に言う「ノウハウ」のことで、こっちで理解すると分かりやすいのではないでしょうか。

形式知とは

前述した暗黙知の対義語として理解される概念が「形式知」です。形式知とは、言葉や図形、図表などで説明できる知識のことを指します。

客観的に把握できることや論理的構造として捉えられることが形式知の特性です。企業で言うならば、マニュアル化された資料や明文化された規則などがこれに相当します。

暗黙知と形式知を具体例でわかりやすく

自動車の運転を例にして具体例を紹介します。

  • 暗黙知の具体例

車を運転したことがある人なら分かると思いますが、「これだけアクセルを踏んだらこれだけスピードが出る」という感覚がありますよね。

いちいち教習本には明文化されていないことですが、車をある程度運転すれば自然と体に身につきます。このような言語化されていない感覚的な知識が暗黙知です。

  • 形式知の具体例 

さきほどの感覚的な知識とは別に、「どこを踏めば車が前進するのか」といったことはきちんと言葉で説明されないとわかりません。ここでの例では、「車を前に進ませるにはアクセルを踏む」が形式知になります。

言語化できないのが暗黙知、言語化できるのが形式知、と理解するとわかりやすいでしょう。

なぜ暗黙知が暗黙知のままになってしまうのか

社内の情報が形式知に変わらず、ずっと暗黙知のままになってしまうのはなぜなのでしょうか?

情報共有の文化がない

まず、社内に情報共有の文化がないことが挙げられます。

自分が持っている知見を他の人に共有することが普段から行われておらず、情報が属人化してしまっているのです。

このような状態では、暗黙知が形式知に変換されることなく、暗黙知のままになっています。

情報共有することのインセンティブがない

情報共有をしたことを称える制度が整備されていないことも理由の一つです。

暗黙知を形式知として変換する作業は労力がかかります。心の底から利他主義の人なら、見返りを求めず自分の知見を他人に還元しようとしますが、普通の人ならそうはいかないはずです。

情報共有をすることによって何かしらのインセンティブ(メリット)が本人に受けられないと、自ら進んで暗黙知を形式知に変換しようとは思わないでしょう。

暗黙知のままにしておくことのリスク

  • 社内のナレッジが死んでいく

ナレッジを暗黙知のまま放置していると、社内で活かされることなく死んでいく可能性があります。どんなに有用なナレッジでも、社内に広まらず属人化されたままになっていると、そのナレッジを持った人物が退職/転職する際には消えてしまいます。「この人だけしか知っていない営業ノウハウ」「この人だけしか持っていない仕事術」などが、社内に留まらず無くなっていってしまうのは非常にもったいないことですよね。

  • 業務の効率が下がる

例えば新人教育を例にとってみます。

自社に新たな社員が入ってきて、企業理解、マインドセット、ビジネスマナー・スキル、業務のやり方などを一から教えていくとしましょう。でも、担当できる人がこれまで新人研修を担ってきたAさんしかおらず、研修カリキュラムも特にマニュアル化されていない状態だったとします。

さて、あきらかに効率が悪いですよね。

もしAさんの新人研修カリキュラムがマニュアル化(形式知化)されていたら、他にBさん、Cさんも新人教育を担当できるわけで、効率は何倍にもなります。これをしないのはいかに非効率的な状態であるか、想像にたやすいでしょう。

形式知化には「ナレッジマネジメント」が有効

暗黙知を形式知化していくためのカギとなるのがナレッジマネジメントという概念です。

ナレッジマネジメントとは?

ナレッジマネジメントとは知識や経験、ノウハウの共有や活用を通して、新たな知識をさらに創造し、ビジネスに役立てていくことを意味します。ナレッジマネジメントは経営学者として著名な野中郁次郎教授らが初めて提唱したと言われています。日本のビジネス界に「暗黙知」の概念を広めたのも同氏の功績です。

なぜ注目されているのか

ナレッジマネジメントが注目されている理由としては、日本において終身雇用制度が実質的に崩壊したことが挙げられます。高度経済成長期においては終身雇用が当たり前であり、長期的な人材育成が可能なので自然とナレッジの蓄積や共有が行われていました。

しかし就職氷河期を経て働き方が大きく変化した現代、人材の流動性が高くなり、企業は知的リソースを意識的に蓄積・共有する必要性に迫られるようになってきたのです。さらにIT技術が高度に発達したいまの情報化時代においては、意思決定や行動にスピード感が求められています。こうした状況においては、知識を迅速かつ効率的に共有する手段を確保する必要性が増しており、知識の効果的な蓄積や共有を行うナレッジマネジメントの注目度が高まっているのです。

ナレッジマネジメントを行うメリット

続いては、ナレッジマネジメントを推進することで、企業がどのようなメリットを得られるのかを解説していきます。

業務の効率化

ナレッジマネジメントを進めることで業務効率化の実現が期待できます。ナレッジを共有・蓄積することで、同じミスを犯すことが少なくなり、無駄な時間的コストを掛けずに済みます。また、社内wikiやFAQを活用することで、誰もが業務の最適な進め方を知り、業務の効率化を図れます。

教育コストの削減

教育コストの削減もナレッジマネジメントで得られる大きな効果です。知識の共有と蓄積を進めることで、業務遂行に役立つ組織の知識は高度に体系化され、共有されていきます。これによって新入社員の入社時や、新たな業務の際に一から教育や研修をせずとも、蓄積されたナレッジを利用することで効率的に人材育成を行うことが可能になります。

顧客満足度の向上

顧客満足度の向上も期待できる効果に含まれます。組織のナレッジの中には、顧客情報も含まれます。ベテラン社員が有する顧客に関するナレッジやノウハウを集積していくことで、新入社員でもそれぞれの顧客ニーズに合わせた対応が可能になり、結果として顧客満足度の向上が実現できます。

組織力の強化

組織力の強化も見逃せないトピックです。ナレッジを共有する場が活性化することで、従業員間の交流は促進され、お互いに対する理解を深められます。全社的にナレッジを共有する場を設けることで、普段はかかわりのない社員や部門の仕事内容を知ることもできるでしょう。結果として従業員間や部門間の連携が強化され、組織力全体の強化につながることが期待できます。

イノベーションの創出

SECIモデルでも示されていたように、ナレッジは蓄積されて終わりではなく、共有・昇華を経て、更に高次元なものへと進化していくことが期待できます。また、一つのナレッジを知見の異なる複数人が見ることで様々な視点からの意見が加わり、新たなイノベーションが創出されることも見込めます。

ナレッジマネジメントを行う4つの方法

続いては、ナレッジマネジメントを行うための4つの方法を解説していきます。

SECI(セキ)モデルを使う

先に挙げた野中郁次郎教授はナレッジマネジメントの進め方として、「SECI(セキ)モデル」というフレームワークを提唱しています。SECIモデルでは(1)共同化、(2)表出化、(3)結合化、(4)内面化という4ステップを回すことで組織に内在する暗黙知を形式知化できるとされています。各ステップの内容は以下の通りです。

(1)共同化

共同化の段階は、既に何らかの暗黙知が組織内に形成されている状態です。この段階において、暗黙知は往々にして個人単位や小規模なグループ単位で細々と活用されています。

(2)表出化

このような暗黙知の存在を組織として自覚し、顕在化させるのが表出化の段階です。ここにおいて暗黙知はマニュアル化などを通して形式知化されます。

(3)結合化

形式知化された知識(暗黙知)は、高度に知的な方法で組織的に運用することが可能です。そうして活用されていく中では、知識同士を組み合わせてさらに相乗効果を高めたり、新たな知識が創造されたりすることもあるでしょう。これが結合化の段階です。

(4)内面化

運用が進んでいく中で新たな形式知は組織の中に浸透していき、自然と再び暗黙知へと変わっていきます。これが内面化の段階です。ただし、この際に暗黙知される知識は、形式知化を経てより高い価値を有しています。より価値を増した暗黙知をさらに再び掘り起こし、形式知化していくことで、組織のナレッジを持続的に発展させていくことが可能になるのです。

場(ba)を創造する

ナレッジマネジメントの第二の手法は、場(ba)を創造することです。この場合の「場」とは、空間的な場所を指すというより、暗黙知や形式知が共有・蓄積されていくためのコミュニティやその機会のことを指します。

この場には様々な種類があり、喫煙所や食堂での雑談はもとより、社内SNSやオンラインミーティングなども含まれます。暗黙知や形式知が共有されるには、従業員間での交流を活発化することが必要になるのです。

知識資産を活用する仕組みを作る

ナレッジマネジメントの第三の手法は、知識資産を活用する仕組みを作ることです。ナレッジマネジメントを一時的なもので終わらせず続けていくには、そこで得た情報を実際に活用していく仕組みづくりが必要です。

例えばマニュアルや社内wikiの作成などはその代表例です。なるべく気軽に知識や経験を提供できる仕組み、継承できる仕組みを作ることで、ナレッジマネジメントを効率的に進めることができます。

ナレッジリーダーシップを活用する

ナレッジマネジメントの第4の手法はナレッジリーダーシップを活用することです。ナレッジリーダーとは、ナレッジ活用の目標を作成し、それに向かって進めるために推進する人を意味します。

暗黙知の形式知化には一定の難しさがあり、どのような暗黙知が自社にとって価値があるのか、そもそも自分がどのような暗黙知を持っているのか分からない場合もあります。あるいは、暗黙知を提供することで組織内での自分固有の強みが失われることを恐れて、知識を出し渋る人もいるかもしれません。

こうした課題に対応するための人材がナレッジリーダーです。ナレッジリーダーを中心にナレッジマネジメントを進めていくことで、協力者を増やしていくことができます。

ナレッジマネジメントを行う際のコツ

前記したようなメリットを生み出すために、企業はどのような点に気を付けてナレッジマネジメ

ントに取り組めばいいのでしょうか。以下では、知識の蓄積や共有を進める際のコツを紹介していきます。

リーダーを決める

ナレッジマネジメントを効率的に進めていくためには、リーダーを選出し、そのリーダーを中心に計画を進めていくことが大切です。選定されたリーダーは、ナレッジマネジメントの方向性や目的を組織内に周知する役目を担います。そうすることで、知識を共有することの重要性についての理解を従業員全体で深めたり、積極的なナレッジ共有を促したりすることが可能になります。

ナレッジを共有しやすい環境を作る

ナレッジを共有しやすい環境を意識的に作ることも重要です。先述のように、ナレッジは共有されることで昇華されていきます。それゆえ、ミーティングなどを業務内に設けるのはもちろん、休憩スペースや喫煙所など、業務に直接関係のないリラックスした場も設けて従業員間のコミュニケーションを活性化することが大切です。

ナレッジマネジメントの重要性を周知徹底する

ナレッジマネジメントの重要性を従業員全体に周知して、徹底することも重要です。中途半端に周知したところで、日々の業務に忙しい社員にとってナレッジの提供は優先度の低いものになりがちです。それゆえ、ナレッジマネジメントの意義や必要性を周知徹底し、経験豊富な社員などに蓄積した豊富なノウハウを提供してもらうように強く呼びかける必要があります。

ナレッジマネジメントツールを導入する 

ナレッジマネジメントツールとは、社内で蓄積された知識やノウハウを企業全体で共有するためのツールです。暗黙知を形式知に変換するための効果的なツールと言えるでしょう。次の項目でいくつかを紹介します。

おすすめのナレッジマネジメントツール 

社内SNS

社内SNSとはその名の通り、社内の情報共有やコミュニケーションを円滑にするためのツールです。

主な機能として、個人間のチャット、グループチャット、ファイルのアップロード/ダウンロードなどが可能です。

主な例でいうと、

・Chatwork

・Slack

・LINE WORKS

などがあります。

社内FAQ

社内FAQとは社内で頻繁に飛び交う質問、俗に言う「よくある質問」に対しての回答をマニュアル化したものです。同じ質問に対して何度も回答することがなくなり、業務の円滑化につながります。

主な例でいうと、

・Zendesk

・PKSHA FAQ

・ナレッジリング

などがあります。

ナレッジベース

ナレッジベースとはナレッジを一カ所に集めたデータベースのことです。ナレッジベースを導入することで、社員はどこにナレッジを提供すればいいのか、どこにアクセスすればナレッジを手に入れられるかを理解しやすくなり、ナレッジの共有を効果的に進めやすくなります。

主な例でいうと、

・GROWI

・esa

・Confluence

などがあります。

ナレッジベースツール「GROWI.cloud」で効果的なナレッジマネジメントを

先述のように、ナレッジマネジメントにはナレッジベースが非常に有効です。例えばナレッジベースをクラウド上に構築すれば、テレワーク環境などで社内研修が満足に行えない状況でも、それぞれの社員は必要な知識を迅速に得ることができます。

GROWI.cloudはクラウド上に社内wikiを作成できるナレッジベースツールです。GROWI.cloudではテキストだけでなく図表なども利用できるので、文章だけでは表現しづらい知識も分かりやすく伝達できます。また、同時に多人数編集もできるので、ナレッジの共有や蓄積を容易に行うことが可能です。ナレッジマネジメントの推進の際には、ぜひ導入をご検討ください。

まとめ

本記事では暗黙知と形式知の意味や、暗黙知を形式知化するためのナレッジマネジメントについて解説しました。ナレッジマネジメントを進めるためには、従業員間の交流を活性化すると共に、社内wikiなどのナレッジベースを導入することが重要です。ナレッジベースを導入する際には、「GROWI.cloud」の利用をご検討ください。