企業の情報共有化の現状と今後について
皆さんは日ごろの業務をこなす中で、適切な情報共有はできていますか?当たり前のように感じることかもしれませんが、非常に重要なことです。
そして、その情報共有を活発にするためにはITツールの活用が必要不可欠です。
そこで本記事では企業における情報共有に関するメリットや情報共有化の現状、問題点などについて見ていきたいと思います。
Contents
情報共有をするメリット
まず初めに、情報共有をすることで得られるメリットについて整理しておきたいと思います。
業務の改善・効率化
主に企業という組織における情報共有の大きなメリットとして、業務の改善・効率化というものが挙げられます。これは一番イメージしやすいのではないでしょうか。
大切なのは、各個人が業務の進捗状況やスケジュールなどの情報を常に共有し、それらを統合管理することです。
こうすることで、誰もが組織全体の流れや状況を把握することが容易になり、協働の流れを加速させることが出来ます。
新たな知識の創造
適切に情報共有を行うことによって、新たな知識の創造を期待することが出来ます。
これに関しては、情報共有に重きを置いた経営管理手法のナレッジマネジメントのフレームワークとして提唱されている、「SECIモデル」で詳しく述べられています。
この「SECIモデル」について大まかに説明すると、知識は組織の中である特定のサイクルを繰り返すことによって、その知識を元にしたより高次の知識を生み出すことが出来るとされています。
詳しくはナレッジマネジメントのSECIモデルとはの記事で解説されていますので、気になる方はご覧下さい。
信頼の形成
かねてより、情報や知識の共有を促進する要因については多くの研究がされてきました。その中でも、我々にとって最も重要と言っても過言ではないものとして、信頼の形成が挙げられます。
人は、お互いの情報を共有することによって、信頼を形成することが出来るのです。
しかし、その一方で、このような疑問を持つこともできるのではないでしょうか。
「そもそも信頼がなければ、情報共有は行われないのではないか。」と。
情報共有が信頼に影響を与えるのか、信頼が情報共有が影響を与えるのか。まさに「卵が先か、鶏が先か。」。
これに関しては、実際にどちらのパターンも研究がなされており、どちらのケースも正しいと考えられています。つまり、重要なのはどちらが先かではなく、情報共有と信頼関係は密接な関係にあり、情報や知識を積極的に共有することで信頼が形成されていくという点です。
情報共有の必要性
そもそも、何のために情報共有をするのでしょうか。
理由の一つとして挙げられるのが、日本における雇用状況の変化です。
過去の日本、特に終戦から高度経済成長期にかけては終身雇用が基本でした。そのため、人材の流れは固定的になり、暗黙的な情報共有が可能でした。
しかし、年月を重ねこの状況は大きく変化しました。
『リクナビNEXT』が2017年1月~6月に行った調査によると、20代での転職未経験者は76%でしたが、30代になると47%と一気に低下し、転職未経験者が少数派になります。40代、50代も引き続き転職未経験者数は減少していき、50代での転職未経験者はわずか34%になります。(参考記事:リクナビNEXT)
また、総務省統計局の労働力調査によると、転職者数は年々増加傾向にあり、2019年では351万人にも上ります。(2020年はコロナ禍の影響もあり319万人に減少。)(参考:労働力調査(詳細集計) 2020年(令和2年)平均結果)
このような人材の流れが流動的な環境では暗黙的な情報共有は難しく、誰しもが分かる状態での情報共有の必要性が発生してきたのです。
情報共有化に必要なIT化
先述したように、人材の流れが流動的な環境では情報共有を有効に行わなければなりません。そこで重要なのが、情報は必要としている人に迅速に、かつ正確に伝達しなければいけないということです。
そのため、これらを可能とするIT化は、情報共有において必要不可欠と言っても過言ではありません。伝達が必要な相手のいる場所や離れていたり、組織の規模が大きくなったり業務が多岐にわたるほど、この傾向はさらに強くなるでしょう。
もちろん、すべてのケースにおいてIT化した方が良いとは言いません。それでも、情報共有をITツールを用いた方が優位なのは間違いありません。
それでは、日本の企業においてITツールを用いた情報共有化はどの程度進んでいるのでしょうか。
近年は、先ほども少し触れたナレッジマネジメントの浸透により、情報共有化の重要性がより一段と認知されてきました。しかし、企業における情報共有化が十分になされているかというと、そうとは言い切れません。課題を抱えている企業が多いのも現実です。
では、なぜこのようなことになってしまっているのでしょうか。
その原因の一つに、日本の(主に中小)企業におけるIT化が不十分であることが挙げられます。
日本における情報共有化・IT化の現状
現状の日本では情報共有化、IT化はどの程度進んでいるのでしょうか。
結論から言うと、日本の企業において情報共有を目的としたIT化はまだほとんど進んでいません。
中小企業庁が行った既存の調査を見ると、中小企業における一般のオフィスシステムの活用割合は、大規模企業群では74.2%、中小企業の中でも売り上げ規模が低い最小規模群では36.3%と、やや割合にばらつきはありますが、近年のIT技術の進歩と普及により全体的に活用されていることが分かります。(参考:2018年版「中小企業白書」)
一方、情報共有を目的としたものはどうでしょうか。
最も活用割合が高い大規模企業群ですら21.7%、最小規模群に至っては7.3%と、一般オフィスシステムと比べるとその活用割合が大きく低いことが分かります。
このことからも、日本の企業、特に中小企業において、情報共有におけるIT化はまだまだ普及していないことが伺えます。
一般オフィスシステム (ワード、エクセル等) | グループウェア (スケジュール・業務情報共有やコミュニケーション) | |
大規模企業群 | 74.2% | 21.7% |
中規模企業群 | 58.5% | 12.6% |
小規模企業群 | 48.8% | 7.9% |
最小規模企業群 | 36.3% | 7.3% |
なぜ企業における情報共有化が遅れているのか
ではなぜ、これほどまで企業における情報共有化は遅れているのでしょうか。
まず初めに考え付くのは、ITツールに導入しようとする際に、企業が何らかの課題を感じているということです。こちらも中小企業庁の調査によると、導入する際の課題として一番多く挙げられていたのが「コストが負担できない」で30.6%、続いて「導入の効果が分からない、評価できない」が29.6%、「従業員がITを使いこなせない」が21.5%となっています。(複数回答あり)
つまり、企業は導入する意思が全くないわけではなく、費用対効果と人材面が大きな導入障壁になっていて導入が進んでいないということが分かります。
次に考えられる理由として、日本特有の文化というものが挙げられます。
皆さんは、「高コンテクスト」と「低コンテクスト」という言葉を知っているでしょうか?また、意味を知っているでしょうか?
高コンテクストとは、実際に発言された言葉よりも、その背景にあるものを察して理解するコミュニケーションのことを指します。一方、低コンテクストとは、言葉にしたものがそのままの情報として伝わるコミュニケーションのことを指します。
日本は、この高コンテクストを重視する高コンテクスト文化、いわば察しが重要視される文化です。
「言わなくても分かるだろ?」
皆さんもこのような空気を感じたことがあると思います。こうした文化も影響し、日本では情報共有におけるITツールの活用が進んでいないのかもしれません。
まとめ
本記事では、様々な観点から情報共有化について述べてきました。
過去の日本において終身雇用が成り立っていたのは、高度経済成長により日本企業が右肩上がりの成長を遂げていたからです。しかし、現在の日本経済は停滞し、高度経済成長期ほどの競争力は今の企業にはありません。そうした中で、年功序列とセットの終身雇用が終わりを迎えつつあるのは必然のことでしょう。
これに加え、成果主義の台頭や働き方の多様化などもあり、人材の流れは今後もより流動的になっていくと予想されます。まさに、日本企業は変化の過程にいます。
この変化に取り残されず、競争力をさらに高めていくためにも、情報共有のIT化は必要不可欠なのです。