ナレッジとは?ノウハウやスキルとどう違うの?今更聞けない基本を解説

2022-03-23

ナレッジとは?ノウハウやスキルとどう違うの?今更聞けない基本を解説

「ナレッジマネジメント」に取り組む企業が増えつつある昨今ですが、「そもそもナレッジとは何か」と聞かれてすぐに答えられる人はどれほどいるでしょうか。
本記事では、ビジネスにおけるナレッジマネジメントで共有・継承・発展が目指されているナレッジとは何なのか、そもそもの基本から立ち返って解説していきます。

ナレッジとノウハウ・知識・スキルはどう違う?

ナレッジ(Knowledge)という言葉は学校の勉強でも初期に学習する英単語のひとつです。それゆえ、ナレッジと聞いて、「知識」という訳語をすぐに思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。実際、Knowledgeという単語を辞書で引くと、多くの場合、「知識」や「知っていること」という訳が先頭に出てくることでしょう。
しかし、この「ナレッジ(知識)」という言葉の定義を特定するのは意外に容易ではありません。以下では、ナレッジと「ノウハウ」、「知識」、「スキル」という言葉にはどのような違いがあるのか、後半で述べる「ナレッジマネジメント」における理解に基づいて解説していきます。

ナレッジとノウハウの違い

まずは、ナレッジとノウハウの違いから見ていきましょう。先述のように、ナレッジとは「知識」や「知っていること」を表す概念です。他方で、ノウハウとは英語にすると「know-how」、すなわち、「何かのやり方または方法(how)を知っていること(know)」を意味します。
以下では、ナレッジとノウハウに関連した概念を紹介します。

事実知と方法知

ノウハウという概念を最初に学問的に考えたのは、ギルバート・ライルという哲学者だと言われています。ライルは彼の主著『心の概念』で、知識(ナレッジ)とは「事実知(knowing what)」と「方法知(knowing how)」の2つに分類できると主張しました。

例えば、「あの人はチェスのことをよく知っている」と言う場合、そこには2つの意味が考えられます。1つめは、その人がチェスのルールや歴史など、言葉で説明できる事柄(事実知)について博識であるということです。これはチェスの審判や研究者などが豊富に持っている知識と言えるでしょう。こうした知識は形式知と言われることもあります。

これに対して2つめの例は、その人がチェスに熟練していることを言い表している場合です。要するに、その人はチェスが上手である、勝つためのコツやスキルを豊富に持っているという意味で「知っている」と述べることもあるのです。そして、こうした意味での「知っていること」が、ライルの述べる方法知、つまりノウハウに該当します。

形式知と暗黙知

言葉や図表などを通して概念的に習得される事実知つまり形式知に対して、ノウハウは実践を通して習得・表現されることに特徴があります。
例えばサッカー選手が初心者のコーチをするとき、どのようにすれば相手をドリブルで上手に抜けるのか、言葉ではうまく説明できないかもしれません。しかし、実際にプレーをしてみれば、彼らは素人など簡単に抜き去って、その方法を十分に知っていることを如実に示すことができます。

「言葉ではうまく説明できないけれど知っていること」は、暗黙知と呼ばれることもあります。暗黙知とは、マイケル・ポランニーという哲学者が提唱した概念で、1990年代に一橋大学の野中郁次郎教授が唱えた「SECIモデル」というナレッジマネジメント理論の中核を占める概念にもなっていることで有名です。野中氏は、『直観の経営』という著書の序文で、知識(ナレッジ)は「人類が無意識的に創造してきた「暗黙知」と、意識的に創造してきた「形式知」を両面とする」と述べています。

(引用元:野中郁次郎・山口一郎『直観の経営』KADOKAWA、2019年、4頁)

ノウハウも広い意味でナレッジの一部

この野中氏の記述を基に、ナレッジとノウハウの違いを整理すると、ノウハウとは上記の方法知または暗黙知のことです。対して、ナレッジは、事実知(形式知)と方法知(暗黙知)の双方を含んだより一般的な概念であると言えます。
ナレッジを形式知、ノウハウを暗黙知として区別する人もいますが、そもそも暗黙知の原語が英語で“tacit knowledge(タシット・ナレッジ)”と表記されることを考えれば、暗黙知もまた広い意味でナレッジの一種であると考えた方が妥当でしょう。

・ノウハウとナレッジとの違い
(1)事実知(knowing what)、形式知
(2)方法知(knowing how)、暗黙知→ ノウハウ
ナレッジは上記(1)を指すと説明される場合もあるが、実際は(1)(2)を両方含む

ナレッジと知識の違い

続いては、ナレッジと知識の違いについて考えてみましょう。Knowledgeという英単語に対して一番よく使われるのが、「知識」という日本語です。ナレッジマネジメントにおいてもナレッジは「知識」と表記されるのが一般的です。
たとえば、先に紹介したナレッジマネジメントの研究者、野中郁次郎氏は「知識創造理論」というナレッジマネジメント理論を展開していますが、これは英語で“knowledge creation theory(ナレッジ・クリエイション・セオリー)”と訳されます。それゆえ、基本的には「ナレッジ=知識」と考えてよいでしょう。

ただし、上記のイコール関係は、あくまでもナレッジマネジメントの領域における定義であることに注意が必要です。というのも、ビジネス現場も含めて私たちが日常的に「知識」という言葉を使う場合には、もっぱら言葉や図表などで説明できる事実知・形式知のみを指していることがほとんどだからです。

他方で、ナレッジマネジメントにおけるナレッジとは、形式知と暗黙知の両面から成立している包括的な知です。また、ナレッジマネジメントにおいては、従業員個人やごく限られた集団の中でしか認知・活用されていない暗黙知を発見・共有して形式知の中に落とし込み、「組織のナレッジ」として活用していくことを目指します。
こうした点に鑑みると、私たちが日常的に使っている「知識」という言葉と、ナレッジマネジメントにおける「ナレッジ」という言葉は、その内実の豊かさがまったく違うことが分かります。

・ナレッジと知識との違い
ナレッジ≧知識

ナレッジとスキルの違い

ナレッジとスキルの違いを見ていきましょう。スキル(skill)とは、実体験を通して習得される専門的な能力を指します。たとえば、「ITスキル」「エクセルスキル」といったように、個別分野に役立つ「技術」「技能」を指すのが一般的です。スキルは基本的にノウハウの一領域に分類される概念です。

それゆえ、各概念の階層構造としては、一般性の高い順にナレッジ、ノウハウ、スキルとなります。

・ナレッジとスキルとの違い
ナレッジ>ノウハウ>スキル

ナレッジの基本的な使い方

ナレッジは、個人が持つノウハウ・知識・スキルを収集し蓄積された情報であり、企業活動において近年ますます重要視されています。しかし闇雲にデータを集めるだけで使い方や目的が分からなければ、せっかく集めたナレッジを十分に活かすことが出来ません。では、実際にナレッジはどのように活用されているのかを見ていきましょう。

業務の属人化を防ぐ

企業に長く勤めている人の中には、いつの間にか特定の業務を担当する人が1人だけになるという場合も見られます。もちろん、慣れている人がその業務を担当するのは、ミスのないスピーディな処理が行えるので良いですが、その人が不在の時に他に担当できる人がいなく、業務全体がストップしてしまうという問題点もあります。

その業務についてのナレッジがきちんと用意されていれば、担当者が不在の時でも全体の進行を止めることなく完了させることができます。

顧客満足度の向上

お客様の中には、要望やクレームの対応が複数部署にわたることもあります。この際に、企業内で過去のクレームの対応方法やお客様に関する情報が共有できれば、お客様へのスムーズな対応が可能となります。より迅速でお客様の要望に合った対応ができれば、二次クレームの防止につながるだけでなく、顧客満足度の向上にもつながっていくでしょう。

効率的な人材育成

企業に属したばかりの新人に対するナレッジをまとめておくことで、人材育成の進捗の把握がしやすくなり、より効率良く高水準の技能や知識を会得することが可能となります。

他にも、業務について分からないことがある際に、自分で業務に関するナレッジを手に入れることができれば、ある程度の段階までは業務を行うことが可能となります。

自分で分からないことを調べ、要点を上司に確認するフローが確立できれば、より能動的に動ける社員の育成や、教育担当の負担の削減にもつながるでしょう。

ナレッジ管理(マネジメント)とは

企業にとって、ナレッジは付加価値となる重要なデータです。しかしナレッジは、単に文字による知識や情報だけでは十分な効果を発揮することが出来ません。そのナレッジが生まれた体験から得たられたスキルやノウハウを実践し合わせることで効果を発揮します。必要なタイミングで適切なナレッジを手に入れることができなければ、宝の持ち腐れとなってしまいます。

企業において、ナレッジを活用しようと考えるなら、ナレッジ管理(マネジメント)は必要不可欠と言えるでしょう。

ナレッジマネジメントの歴史

ここでは、ナレッジマネジメントがビジネス界に広がるまでの歴史を見ていきます。

【1980年代】
ナレッジマネジメントは、1980年代に登場しました。この頃はビジネス現場におけるITシステムの活用が急速に進展し始めた時期です。各企業はシステムの中に蓄えられた膨大な情報をいかに自社のビジネスに活かすかを課題として抱えていました。
このような状況下でナレッジマネジメントは、システムの情報と人を結び付け、組織の知的資産を有効活用するためのビジネス手法として提唱されました。

【1990年代】
ナレッジマネジメントがビジネス界に本格的に広がり始めたのが1990年代です。この頃、インターネットの爆発的普及により各人が触れる情報量が圧倒的に増えました。それとは裏腹に、企業においてナレッジを共有・活用する重要性の理解はあまり進んでいませんでした。
しかし、先に紹介した野中郁二郎氏がナレッジマネジメントを促進するためのフレームワーク「SECIモデル」を提唱したことをきっかけに、ナレッジマネジメントへの注目度は改めて高まり始めました。

【2000年代】
2000年代にはいると、ナレッジマネジメントを正しい理解のもとで実践する企業が増え始めました。こうした企業は、「システムを導入しただけではナレッジの共有は進まないこと」「ナレッジの共有は部門を横断して全社的に行うべきこと」「ナレッジは実践に役立たないと意味がないこと」を念頭に置き、より現場の実際に寄り添った形でナレッジマネジメントを活用するようになりました。

【現在】
働き方改革推進や新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークが急速に普及した現在、ナレッジマネジメントの重要性が再注目されています。なぜならテレワークにおいては対面でのオフィス勤務と比べて、気軽にコミュニケーションを取ることが難しい側面があるためです。
また、終身雇用制度が崩れて転職者も少なくなく、雇用の流動化も進んでいます。
このような状況下で、多くの企業は情報(ナレッジ)を共有する大切さを改めて実感すると共に、ITをさらに活用して従来とは異なった方法でナレッジマネジメントを可能にする方法を模索するようになりました。

ナレッジ管理(マネジメント)の流れ

ナレッジマネジメントを実施するにあたっては、どのような流れで進めればいいのでしょうか。以下では、ナレッジマネジメントの流れと手順を説明していきます。

企業理念とビジョンの明確化

ナレッジマネジメントを実施するにあたっては、最初に経営トップが自社の企業理念やビジョンを従業員に対して明確に示すことが大切です。これはつまり、何を目指してナレッジマネジメントを行うのか目標を明確にするということでもあります。

従業員の中には、ナレッジの共有を面倒臭がる人や、ナレッジを組織の中で生き残っていくための自分個人の資産と見なして共有したがらない人もいます。それゆえ、ナレッジマネジメントを始めるにあたっては、経営者自らが音頭を取って、トップダウン方式で強力に推進するのがおすすめです。また、取り組みの評価がしやすいように、「社内wikiの閲覧率を~%にする」というような目標値を設定することも大切です。

必要なナレッジを特定する

次のステップは、企業理念やビジョンの達成のために必要なナレッジを特定することです。ナレッジマネジメントで共有を目指すナレッジとは、ビジネスの実践現場で役に立つものでなくてはいけません。各従業員としても、「なんでもいいから知識を出せ」と言われても、困惑してしまうことでしょう。それゆえ、ナレッジマネジメントを効率的に進めるには、自社が求めるナレッジとは何かを特定し、その指針を従業員にも周知し風土づくりに努めることが必要です。

ナレッジを提供したくなる仕組みづくり

次のステップは、各従業員が自分のナレッジを進んで提供したくなる仕組みづくりに取り組むことです。ナレッジマネジメントのよくある失敗原因のひとつには、従業員の協力が得られないことがあります。それゆえ、この課題に対処するためには、ゲーム感覚でナレッジの共有を行なえる仕組みをつくるなど、従業員が積極的にナレッジを共有しやすい仕組みや企業風土をつくっていくことが大切です。

集めたナレッジの共有と活用の仕組みづくり

最後のステップは、集めたナレッジの共有や活用をしやすい仕組みをつくることです。せっかくナレッジを集めても、そのナレッジを参照する際に分厚いマニュアル本をいちいち開かないといけないとしたら、ナレッジの共有はなかなか進まないでしょう。
それゆえ、ナレッジマネジメントを成功させるには、社内wikiを活用するなどして、集めたナレッジへ容易にアクセスできるような仕組みを作ることが大切です。誰でもすぐにナレッジにアクセスできる環境を整えることで、ナレッジの維持やさらなる発展が期待できます。

まとめ

ナレッジマネジメントにおけるナレッジとは、言葉で説明しやすい形式知と、言葉で説明しづらい暗黙知の両面を備えた知識です。この2つの側面を持つナレッジを従業員の間で「組織のナレッジ」として共有・発展させ、ビジネスに役立てていくのがナレッジマネジメントの目標となります。